針千本飲ます

人に当たった後で罪滅ぼしのように死にたがったり「殺してください」と言ったりする。本当に辛い思いをしているのは相手なのに。八つ当たりをした罪悪感から謝ってしまったり、いっそ私を攻撃してくれなんて言うが、優しい相手はそんなことをしない。


クラスに馴染めない。卒業制作のためにくじでランダムに決められた相手の似顔絵とメッセージを描かされそうになっていたが、上手く描けないのでこっそり教室を出ようとする。それをクラスメイトの木内にみつかり、「帰るなら絵を提出しろ」と画用紙を取り上げられる。本当は何も描いてないので、バレたらまずいと思い、木内の手から画用紙を引ったくって丸めてゴミ箱に捨てると、一部始終を見ていた担任教師に怒られた。

本当はこんなことしたくないのに。そんな、くじで決められただけのどうでもいいクラスメイトの似顔絵を描くなら、仲良しの天音のことを描きたかったのに。卒業制作どころか天音は知らぬ間に学校を退学していたらしく、もう私の味方は一人も居ないのだと静かに現実を受け入れる。

その頃の私は、誰彼構わず手当たり次第に物を投げては傷つけようとしていた。

 

ただ一人だけ、私から一番攻撃されていた美波くんだけが、唯一私と向き合おうとした。

私が投げたせいで美波くんの裁縫セットの針は全て折れてしまった。もうこれで何回目だろう。「ごめんなさい、本当にごめんなさい」と泣きながら拾う。「どうして怒らないの」と聞いたら、「怒ったことあるよ。前に物凄く怒って、君のことを針で刺そうとしたでしょ」と言われる。その時の記憶が蘇ってくる。私は色々考えた上で 「確かにその時は怖かったけど、私が受けるべき痛みはそれよりももっと辛くて苦しいことだから、いっそ刺してくれ」と頼む。美波くんの手に針を握らせ「早くして」と誘導しようとする。二人とも、床にちらばった針の前で暫く泣き続ける。