体育の授業Ⅱ

体育の授業に向かおうとする。今日は体力測定で持久走と走幅跳がある。走幅跳は得意項目だから、絶対にクラスで一番になりたい。持久走はあまり自信が無いが、クラスメイトはやる気がなく最初から手を抜く気満々の人が多いので、真面目に頑張ればそれなりにいい結果を出せるだろう。

誰よりも気合を入れて臨もうとしていたのに、授業に向かう前に体操着を自宅に忘れたことに気づく。このままでは体育の授業に出られなくなる。今日の授業を楽しみにしていたので、体力測定が後日に後回しになることは避けたかった。

 

幸い、体操服を貸してくれる体育教師管理の教室があるのでそこに向かう。

そこの担当の先生はとても厳しくて怖いことで有名なので、入室の時から気を抜かずにハキハキと挨拶するよう心掛けた。

「失礼します。2年2組3番 海野憂永です。本日体操服を忘れてしまい、1時間だけお借りできないかと思いこちらを訪ねました。何卒宜しくお願いします」

息継ぎもせずに言い切ると、怖い体育教師が「合格」とでも言うように満足気に頷いた。

 

「あなたが忘れ物なんて珍しいね」

機嫌がいいのか雑談を続けてくる。

「忘れ物してわざわざここに借りに来たんだから、誰よりも真面目に授業を受けなさい。体力測定は絶対に手を抜かないこと。いいね?担当の先生にあなたから目を離さないように伝えておくから」

怖い。最初から手を抜くつもりなんてなかったから別に平気だが、あの人に注目されるのは嫌だ。ていうかこの人、話が長すぎる。早くしないと怒られちゃう。

 

 

やっと解放されて急いで運動場へ向かう。とっくに予鈴が鳴ってて、既に5分以上の遅刻。まず謝って授業を受けるのを許してもらわなきゃいけない、あの人に。

 

「すみません、先程まで体調が悪くて授業に遅れてしまいました。調子が良くなったので、今からでも体力測定に参加させて貰えないでしょうか」

 

体操服を忘れて取りに行ってたことは伏せて、体調不良だと誤魔化した。どうせバレるのに何でそんな嘘ついたんだろう。体調不良だと聞くと、困ったように笑いながら、

「うーん、何でお前はいつもそうなんだろうな」

と言われた。どういう意味だろう。馬鹿にしたような笑いのようにも感じられた。

 

「体調は良くなりました、もう大丈夫です。だから授業に……」

最後まで言いきらないうちに、「そうだな、補習が必要だな」と遮られた。

ほしゅう。とは。

 

「今から買い物に行くから付き合え」

どうやら、罰ゲーム感覚で買い物に付き合わされるらしい。「車を出すから着いてこい」と命令される。

頭が混乱している。えーと、今って授業中だったよね?何でこんなことになってるの?そもそも私一人だけ買い物に付き合わされる意味って何?買い物とかプライベートの用事だし、補習は関係ないよね。

何故こんなに馴れ馴れしくされなきゃいけないんだろう。新種のセクハラのように感じた。