不埒

天音の3年生の進級制作展を見に行く夢。行く途中、廊下でMさんに会った。私は何故かすももちゃんと一緒にいた。あのはにかむような笑みを浮かべて「お疲れ〜」と向こうから声を掛けてきた。多分私たちから話題を降るのを待ってたんだろうけど、私は「こんにちは」と笑い返すのが精一杯でそれだけ言って逃げた。Mさんが何か言いかけてた気がするけど振り返らなかった。

 

会場に着いた。服飾科の30人近くの作品が並んだ展示室にうっと圧倒されて、でも天音ちゃんの作品だけが目当てな私はそれだけを目に焼き付けて、来場したことが本人にバレる前にこっそり帰ろうと思っている。今回は何を作ったんだろう。どんなお洋服だろう。いつも可愛い夢見るようなお洋服だから今回もきっとそうだろうな、なんて。

実力差に圧倒されて泣いてしまわないかな、とか思う。元々私と比べるレベルじゃないんだけど、いつも目の前に経つとああ凄いな流石だなって「完敗です」って気持ちになっちゃう。元々同じ土俵で戦うつもりもないんだけどね、私はずっと逃げてたし。

 

な行だから、真ん中の方。真っ直ぐにそこに歩いていって早く見たい。

トルソーに展示されたふんわりと可愛いワンピースが目に入った。あれかもしれない。

タイトルは《ふしだらなワンピース》。「高校生の頃、お洋服が大好きで『いつかこんな服を自分で作りたい』と夢見ながらクロッキー帳にデザインを描き溜めていた。そんな当時のデザイン画の中から一着。ベーシックなセーラーカラーのワンピースに見せかけて胸の開きは普通のものより遥かに深く、丈は膝よりも短い。それをなんと裏地もつけずに1枚布で作った。こんなものを外で着れるわけがない。ふしだらだ。それでも17歳の私は、このワンピースを最強に可愛いと信じていて、いつか絶対にこの手で作って着るんだと夢見ていた。17歳の私へ、その夢がようやく叶ったよ。洋服としての機能などは抜きにした、私の初めてのデザイン画。一生懸命線画を起こした、愛おしくてたまらないそれを、どうしても今作りたかった。この服を作って良かったです。」

 

いつもよりも長いコンセプトだなと思った。でもこれが天音ちゃんの本心で、心から作りたかったもので、作ったことに対する満足感とか達成感とか自信とか作品からは溢れ出ていて、かっこよくて眩しくて。こんなの誰も勝てないし完敗だよ、って思ったんだ。私は勝負する資格なんてないほど、実力もクソもないんだけど。半泣きになって立っていたら天音ちゃんに気づかれて声をかけられた。「憂!来てたの?」その瞬間いろんな感情がおしよせてきた。こんな嬉しそうな笑顔を私に向けてくれるってことは、嫌われてないのかな?しつこくされるの嫌いかなと思っていつもわざと距離をとって、遠慮がちに連絡したり今日だってこっそり見に来たけど本当はそうじゃないのかな?だってこんな笑顔、好きだと思ってないと向けてくれないでしょ?どうしよう。どうしようもなく好きだ。今日この後何かあるの?このまま一緒に帰りたい。ずっと一緒にいたい。これからもずっと仲良くして。私を天音の1番にして。特別にして。お願いだから。