中庭には楓の木が植えられている

いじめられる夢。

もう学校に通うのが辛くて休学したいと思ってたけど、「とりあえず今日だけでも最後に行ってきなさい」と言われる。ここだけは、過去に休学しようとした時と同じ展開だった。ただ、夢の中の私は、嫌がることなく「分かった、今日だけ頑張る」と勇気を出して学校へ行った。

教室に居る時も、集会に参加している時も、嫌な視線を感じた。そもそも学校が荒れているから、私みたいに真面目に振舞っている人間が異端者扱いされるのは当然かもしれない。集会の間、誰も先生の話を聞いておらず終始ざわざわしていて嫌な雰囲気だったけど、私は背筋を伸ばして体育座りをして耐えた。

集会が終わったあと、あてもなく校内を歩いていた。「もう無理かもしれない」と思って窓を開けて下を見下ろす。ここは五階。流石に死ぬかな。いやそんな簡単に死なないだろうけど、分からない。前に飛び降りた時だって「打ちどころが悪かったら、何階から飛び降りたとか関係なく死ぬからね」って警察に言われたし、本当かも。ただ、今の私は死にたいというより、一歩立ちどまる勇気が欲しいだけなんだ。「助けて」と言えないから、こうやって最悪な行動を起こしてSOSを伝えようとする。SOSが伝わって今の状況が変わりますように、と願っているだけだから、本当に死んでしまったら困る、なんて思っている。でも、自分の気持ちを表現する時は「死にたい」と言ってしまうし、矛盾している。五階じゃ死なないにしても、一歩立ち止まるには大きすぎる代償を払うことになるだろう。

毎日いじめられているから、流石に「生きていても仕方ないかも」とか「誰も私に生きて欲しくないだろうな」と感じるようになってきた。私はそのくらいどうでもいい人間だということは知っている。でも、多分、本当に心の底から消えたいとか死にたいなどと思っているわけではない。だから揺らぐ。「五階から飛び降りるのは怖くて勇気が出なかった――その気になればいつでも死ねるから先送りにしただけ」って言葉で誤魔化してるけど、本当は死にたくないから飛ばなかっただけだ。

これ以上窓の傍に立っていたら、自分の本心に反して飛び降りてしまいそうだったので離れた。でも何処へ行こう。この学校には居場所なんてないのに。下を向いて歩いているうちに、スクールカウンセラーの存在を思い出す。今すぐ病院に行くことは難しいけど、スクールカウンセラーだったら学校に通いながらすぐに利用出来る。今までの人生でスクールカウンセラーにいい思い出はないけど、もうここまで来たら仕方ないからとりあえず足を運ぼう、と思った。

薄暗い廊下を歩いていると、貼り紙をしてある教室が沢山あった。貼り紙をひとつひとつ確認しながら、スクールカウンセラーが居る相談室を探した。廊下の途中で女性が立っていた。この人、どこかで会ったことがあるような。この人が相談室のインテーカーだったかも。

彼女は私に無理に話しかけることはせず、「貴方のことは分かっているよ。利用したくなったらいつでも来てね」という目を向けて微笑んでいた。