手紙

多分、世間的に見たら私たちの間に起きたことは最悪だ。私自身、夢の中で「どこまでバカにされなきゃいけないの?」と苛ついていたが、どんな形であれこっちを見てくれるのが嬉しい、という気持ちもあったと思う。無意識が夢に現れたのだろう。「憎い」「嫌い」「死んで欲しい」なんて思われていても、無関心よりはずっとマシなのかもしれない。

 

 

ポストを覗くと、手紙が束になって入っていた。私に家族は多いが、それにしても普段こんなに郵便を貰うことは無い。私に手紙を送ってくれる人なんて殆ど居ないのだけど、一応確認したら一通だけあった。その封筒だけ異様に厚かった。

差出人の察しがついた。──いや、その人から手紙が送られてくるなんて有り得ないのだけど──直感で分かった。

宛名を確認する。やっぱりそうだった。

手紙を手にした時、嬉しさと悲しさが同時に身体に流れ込んでくるような、何とも形容しがたい複雑な気持ちになったのだ。予感は的中した。

 

それにしても、何故凪が私に手紙を?信じられない。どうやって住所を知ったの?とか、何故自分の名前だけ英語表記なの?とか、突っ込みたいことは沢山あったが、そんなことはどうだっていい。早く読みたい。この重たい封筒の中に、私への悪口雑言が詰まっていると思うと気が重いが、どうかそんな予想が裏切られて欲しい。真逆の言葉が詰まっていたらいいのに。

手を震わせながら手紙の封を切った。裏表にびっしりと書き込まれた便箋が10枚以上入っていた。絵まで描いてある。便箋を順番に並べるだけでも大変な作業であった。本当の気持ちを知るのは怖いけど、覚悟はしている。

 

「この手紙が届く頃には、貴方と私の繋がりは切れて居るでしょうね。まあ貴方は、私一人居なくなったところで気付かないでしょうけど。

今までこうやって離れる時は必ず話し合ってきましたね。数日やり取りが出来ないだけでも、貴方から心配のメッセージが届いた。私も送った。でもね、私は貴方とのやり取りに心の底から疲れてしまったのです。何故貴方は、私の行動の全てを把握しないと気が済まないんでしょうか。今度こそ何も言わずに消えてやろうと思いました。これは貴方への反抗心です。実際私が居なくなっても気が付かなかったでしょう?そうだよね。貴方は"自分に干渉してくれる凪"にしか興味がなかったもんね。この数ヶ月、私から話かけられなくなってどんな気分だった?」

 

ここで耐えられなくなって手紙を閉じた。やっぱりね。嫌われてるんだ。分かってたよ。全部過去のことだもんね。

そう自分に言い聞かせて心を落ち着かせようとしたけど、身体の震えが止まらなかった。これ以上読み進めても期待していたようなことは一切書かれていないだろう。目眩がした。

 

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